EN

ゼロエミッション農業の実現に向けて:農業生産性向上と両立する温室効果ガス排出削減技術の開発と普及拡大

国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構

概要

 農研機構では、気候変動に対応した研究として、①気候変動が農業に及ぼす影響の評価(影響評価)、②高温などの気候変動に適応した高生産性農業技術の開発(適応技術研究)および③農畜産業に由来する温室効果ガスの排出削減技術の開発(緩和技術研究)に取り組んでいます。

 温室効果ガスの排出削減技術の開発(緩和技術研究)については、農業生産性向上との両立を目指し、以下の技術開発と普及拡大を進めて行きます。

  • 温室効果ガス(メタン、一酸化二窒素)の大幅排出削減を可能にする農地や家畜の管理技術
  • バイオ炭活用等による農地炭素貯留技術(大気中のCO₂濃度低減技術)
  • 化石燃料依存から脱却した地産地消型農村エネルギーマネジメントシステム

  

説明

 農林業その他土地利用による温室効果ガス排出量は、世界全体の約24%を占めています(2010年、IPCC第5次評価報告書第3作業部会報告書)。また、日本の農業は、我が国全体の温室効果ガス排出量の約4%(2017年度、CO₂換算値で約5千万トン。農機の使用や施設栽培での暖房等の化石燃料消費に伴うCO₂排出量を含む)を排出しています。

【農地や家畜から排出される温室効果ガスの削減】

 農業から排出される温室効果ガスとしては、水田土壌から発生するメタン(CH4)や農地土壌から発生する一酸化二窒素(N2O)、反芻家畜の消化管内発酵による発生するCH4、家畜排せつ物の管理によるCH4やN2Oなどがあります。CH4とN2Oは、それぞれCO₂の25、298倍の地球温暖化効果をもつ強力な温室効果ガスです。また、これらのガスの排出は土壌、家畜の消化管、家畜排せつ物中の微生物活動によるものであり、農業起源の温室効果ガス排出を特徴づけるものです。農研機構では、CH4削減のための水田の中干し期間の延長や、養豚汚水浄化施設から排出されるN2O削減のための炭素繊維リアクター利用技術など温室効果ガス排出を削減する技術の開発・実証を進めるとともに、CH4排出を低減するウシ系統や水稲品種の選抜・開発にも取り組んでいきます。

【農地炭素貯留技術】

 土壌には、土壌有機物として大量の炭素が蓄積されており、この量は、地球全体でみると大気中の炭素の約2倍、陸域植生中の炭素の約3倍にも及びます。バイオマス(家畜ふん堆肥、緑肥、作物残さ等)を農地中にすき込むと、その一部は微生物の作用により難分解性の土壌有機物に変換され、炭素として土壌中に貯留することになります。このことを「農地炭素貯留」といいます。バイオマス中の炭素はすべて、大気中のCO₂に由来しますので、農地炭素貯留を進めることにより、大気中のCO₂濃度を低減させることが可能です。近年では、バイオマスを、土壌中で分解しにくい炭(バイオ炭と呼びます)に変換して農地土壌に投入することで、農地炭素貯留の効率を高めることが可能であり、その取り組みに注目が集まっています。

【地産地消型農村エネルギーマネジメントシステムの構築】

 農村には、様々なエネルギー資源があります。太陽光発電や風力発電はもとより、農業用水路を活用した小水力発電、家畜排せつ物、食品廃棄物、作物残さ等のバイオマス発酵によるメタン生産、農業施設の冷暖房に利用可能な再エネ熱利用(ヒートポンプによる地中熱利用など)などが挙げられます。これらのエネルギーは電気や水素などの形で融通され、農業生産や日常生活など農村内での様々な活動に利用されます。また、余剰のエネルギーは、水利施設であるポンプ機場を活用することで、一時的に水をくみ上げ、位置エネルギーに変換しておくことも可能です。このようなスマート農村エネルギーシステムの構築により、農村地域における化石燃料依存からの脱却とCO₂の大幅削減が実現できます。また、バイオマス生産能力が高い作物を使ったペレット燃料による施設暖房用燃料の低減、トラクター等農業機械の電化・燃料電池化も農業に由来する温室効果ガス排出削減に貢献できます。

  

 国際貢献について、農研機構では、水田農業が盛んなアジア地域を中心に、節水とCH4排出削減および生産の安定を同時に達成できる水管理技術など、水田土壌から発生するCH4削減技術の開発をリードしてきました。また、日本は、農地炭素貯留によるCO₂吸収量を国の温室効果ガス削減目標に含める数少ない国の一つであり、農研機構が開発した予測モデルを活用した最高次の方法論が採用されています。

  

 農研機構は、国内外を対象とした農業生産性の向上と温室効果ガス排出削減を同時に実現する農業技術の開発にチャレンジします。また、産学官と連携し、温室効果ガス排出削減技術の社会実装を進め、革新的環境イノベーション戦略(令和2年1月決定)が目標と定める国内の温室効果ガス排出量の大幅削減、世界全体での排出削減に貢献します。

  

連携先

 温室効果ガスの排出削減に配慮して生産した農畜産物またはその生産方法にご関心のある企業との連携を要望。また、農業分野のCSR活動やESG投資にご関心のある企業との連携を要望。

 

補足情報

1.土壌のCO₂吸収「見える化」サイト

 ※地図上で農地の場所を指定し、作物や管理方法をメニューから選ぶだけで、土壌炭素の増減(CO₂吸収量)を計算(予測)できる農研機構開発のウェブサイト

 http://soilco2.dc.affrc.go.jp/

2.水田中干し延長による農地土壌由来メタン排出削減技術の開発

 中干し期間の延長で水田から発生するメタンを削減―水管理による温暖化対策―(平成25年6月26日プレスリリース)

 http://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/techdoc/press/130626/

3.養豚汚水浄化処理施設からの温室効果ガス排出を大幅削減 - 農家施設で実証、既存施設への炭素繊維リアクター導入で -(令和元年7月23日プレスリリース)

 https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nilgs/131541.html

 

類似事例

2モータシステム用パワーユニット 「4GL-IPU」

三菱電機株式会社

> 詳細を見る

AI/IoTを活用した分散電源(VPP)のデマンドレスポンス(DR)対応

日本電気株式会社

> 詳細を見る

AI制御で最大50%の基地局電力使用量を削減

KDDI株式会社

> 詳細を見る

BEMS (Building Energy Management System)

鹿島建設株式会社

> 詳細を見る

CO₂を分離するサブナノセラミック膜の開発

日本ガイシ株式会社

> 詳細を見る