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真空浸炭炉の普及による低炭素化推進

大同特殊鋼株式会社

図1:モジュールサーモ®構成例

図2:モジュールサーモ®のCO₂削減効果

概要

 自動車や産業機器で使用される歯車部品等の表面硬化の代表的なプロセスとして浸炭処理がある。ガス浸炭炉が広く適用されてきたが、多量の変成ガス投入と排ガス無害化燃焼により、多くの熱損失ならびにCO₂排出を生じる問題があった。それに対し、当社が販売中の真空浸炭炉(商品名:モジュールサーモ®)は、減圧下においてアセチレンガスを適時適量投入するだけで高効率の浸炭処理が可能となり、また休止状態の待機エネルギーの削減と合わせて大幅な省エネルギーを実現し、その結果、納入先において既設ガス浸炭炉対比で約47%のCO₂削減が実証された。当社はこの省エネルギー性能に優れたモジュールサーモ®の普及と拡販によって、自動車・産業機器向け歯車部品等の浸炭処理プロセスの更なる低炭素化にチャレンジする。

 

説明

 浸炭処理とは、工業的に広く普及している表面硬化処理プロセスである。これは鋼材を歯車等の形状に機械加工後、表面炭素濃度を高めて急冷(焼入れ)することで、歯車表面に必要な強度を付与するための工法であり、その多くは古くから実施されてきたガス浸炭と、近年普及の進む真空浸炭に大別される。

 ガス浸炭は、高温(約900~1000℃)の炉内へH2、CO、N2を主成分とする変成ガスを導入して行うが、炉内を陽圧に保持するために常時多量の変成ガスを必要とし、かつ炉外排出時にバーナ―で燃焼して無害化する必要がある。それに対し真空浸炭は、減圧状態(約1/100気圧)の炉内へ少量のアセチレンガスを導入して行うため、雰囲気ガスの使用量は大幅に少なく、排気ガスはパージ用N2ガスで希釈して燃焼することなく放出しても安全が担保されるため、環境面・安全面いずれにおいても優れた熱処理方法である。しかしながら設備導入コストは、気密性の高い真空容器内で熱処理を行う真空浸炭の方が一般的に高く、普及の足かせとなっているのが実情であり、ランニングコストも含めたトータルライフサイクルコストでの評価が重要なポイントとなっている。

 当社はドイツ・ALD社から導入した基本技術に、当社独自の鋼材技術および真空熱処理技術を組み合わせて、真空浸炭炉(商品名:モジュールサーモ®)を開発・発売、2009年に初めて顧客へ納入したのを皮切りに、これまでに計12社、浸炭室累計112室の販売実績を数える。以下にモジュールサーモ®の普及による効果を以下に紹介する。

  

①適時適量制御による高効率浸炭

 当社は減圧下の鋼材の炭素浸入機構を世界で初めて解明し、熱力学的な計算によって理論的なアセチレンガス導入量を算出できるようになった。その結果、適時適量すなわち必要最小限のアセチレンガスによって狙い通りの浸炭品質を得ることが可能となり、炭素の反応収率は約60%とガス浸炭(1%ないし数%)と比べて大幅に改善した。

②週末停止によるエネルギーロス削減

 ガス浸炭はシーズニングと呼ばれる炉内雰囲気の安定化に約1日かかるため、週末ごとに休止することができず、生産停止期間であっても、炉内を高温に保持したまま変成ガスの導入を継続する必要がある。モジュールサーモ®は密閉性が保証された真空炉であるため、立ち上げに要する時間は約1hと非常に短く、週末は設備を停止して週明けに設備を立ち上げるという操業パターンを容易に実施できる。すなわち生産休止期間の待機エネルギー(CO₂発生)削減するとともに、その間の監視要員(人件費)も不要となった。

③処理室の組合せ自在、間欠操業による無駄なエネルギー削減

 モジュールサーモ®は必要な生産能力に応じて処理室を任意に組み合わせることが可能であるほか、生産量変動時(減産時)は必要な処理室のみ稼働する間欠運転が可能となり、トンネル型連続炉と比べて無駄なエネルギーを抑制することができるようになった。

④高温浸炭による処理時間短縮

 モジュールサーモ®は1000℃以上の高温浸炭も可能であるため、鋼材によっては処理時間が大幅に削減でき、時短による省エネルギーとCO₂排出抑制を実現できる。

  

 これらのさまざまな効果の積み重ねによって、モジュールサーモ®の納入先において、処理品重量当たりのCO₂発生量が既設のガス浸炭炉と比較して約47%削減されることが実証された。この効果をすべての納入先に適用して当社が試算したCO₂削減量は年間約21,000トンと推計される。

 わが国の真空浸炭炉の普及率は約10%(当社推定)であり、モジュールサーモ®導入によるCO₂削減の余地はまだ大きく残っている。先にも述べた通り設備導入コストが依然高く、導入に向けて慎重な顧客は未だ多くあるが、設備コストの更なる低減化を追求するとともに、上記に述べた効果から得られる低ランニングコストを織り込んだ魅力あるトータルライフサイクルコストの提示をして普及に努めていく。また浸炭用鋼材の製造者でもある当社は、高温浸炭用鋼など真空浸炭の強みを最大限生かすことのできる専用鋼の開発においても高い評価を得ており、真空浸炭専用鋼と真空浸炭炉の組合せ提案といった他社にないアプローチでモジュールサーモ®の普及を促進する。そして、これからもモジュールサーモ®のCO₂削減効果を自動車産業全体へ拡大、ひいては低炭素社会の実現に向けて貢献を続ける壮大なチャレンジをここに宣言する。

  

補足情報

https://www.daido.co.jp/products/machinery/mtf/index.html

http://www.jmf.or.jp/japanese/commendations/energy/pdf/h22/22_03.pdf

モジュールサーモ®は大同特殊鋼株式会社の登録商標です。

  

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